コロナ禍を経て、世界中で急速に普及したリモートワーク。それにともない、「旅をしながら働く」というライフスタイルを選ぶ人が急増しました。そんな新しい生き方を支える制度が、「デジタルノマドビザ(Digital Nomad Visa)」です。
このビザは、単なる観光滞在や現地での就労とは異なり、「母国や他国からの収入で生計を立てつつ、長期で滞在できるビザ」として、多くの国で導入が進んでいます。この記事では、デジタルノマドビザの仕組みから、観光ビザ・就労ビザとの違い、取得のメリット・デメリット、発行国、そしておすすめの国の条件まで詳しく解説していきます。
デジタルノマドビザとは?
デジタルノマドビザとは、海外からリモートで仕事をしながら、その国に一定期間滞在できるようにする特別なビザです。リモートワークによる収入があることが前提で、現地での雇用契約やビジネス活動は認められていない場合が多くあります。
たとえば、Webデザイナー、エンジニア、ライター、マーケターなどのフリーランスや、会社員でもフルリモートで働いている人が対象になります。
各国によって滞在可能期間や条件は異なりますが、半年から1年、長い場合は数年の滞在が可能。多くのビザでは延長制度もあり、再入国を自由に認めているものも存在します。
観光ビザ・就労ビザとの違いは?
ビザの種類 | 目的 | 就労の可否 | 滞在期間 | 主な対象者 |
---|---|---|---|---|
観光ビザ ノービザ | 観光・短期滞在 | ✕(働けない) | 国による 通常15日~90日以内 | 旅行者 |
就労ビザ | 現地企業で働く | ○(雇用が必要) | 数年 | 駐在員、労働者 |
デジタルノマドビザ | リモートワーク | ○(国外収入) | 半年~数年 | フリーランス、リモートワーカー |
観光ビザでは現地で働くこと(現地企業に雇用されて報酬を得ること)は認められていません。ただし、実際には多くのノマドが観光ビザやノービザで入国し、短期間の滞在中に自国の会社の仕事やオンラインでの業務を続けているのが現状です。
このようなリモートワークについては、多くの国で明確なルールがないためグレーゾーンとされており、現地での雇用やビジネスに関わらない限り、黙認されているケースが多いのが実情です。
一方で、デジタルノマドビザはこのようなリモートワーカーの滞在を合法的に認める制度であり、滞在期間が長くなる場合に、税制などをクリアにしたい場合には安心できる選択肢です。
デジタルノマドビザのメリット・デメリット
メリット
1. 長期滞在できる
観光ビザでは通常90日までの滞在しか認められないことが多いですが、デジタルノマドビザを使えば半年〜1年以上の滞在が可能になります。好きな国にゆっくりと滞在し、暮らすことができます。
2. 安定した環境で仕事ができる
不安定なビザでの滞在は、常に出国期限を気にする必要があり、仕事にも支障が出ます。デジタルノマドビザがあれば、安心して仕事ができるのが大きな利点です。
3. 滞在の自由度が高い国もある
国によっては、複数回の入出国が自由であったり、家族帯同が可能だったりと、柔軟なビザ制度を導入しているところもあります。
デメリット
1. 収入要件が高め
多くの国で、月2,000ドル〜4,000ドル以上の収入証明が必要です。現地の平均所得よりかなり多い収入額が条件となっていることが多く、フリーランスなどで収入が不安定な人にはハードルとなる可能性があります。
2. 書類提出や審査が煩雑
収入証明、雇用証明、住民票、健康保険、銀行残高など、多くの書類提出が求められます。場合によっては翻訳や公証も必要になるため、申請の手間は少なくありません。
3. 税金や保険の問題
デジタルノマドビザでの滞在者は、現地での納税が免除になる国も多くありますが、そうではない場合、自国との2重課税になってしまう可能性があります。租税条約を結んでいる場合は大丈夫ですが、納税の手続きが複雑になってしまいます。
また、医療保険は自前で用意する必要がある場合がほとんどです。
なぜ多くの国がデジタルノマドビザを導入しているのか?
コロナ以降、加速した制度導入
2020年のコロナパンデミックによって観光産業が壊滅的な打撃を受けたことが、多くの国でデジタルノマドビザが導入されるきっかけになりました。観光客が来ない中で、長期滞在してお金を使ってくれるデジタルノマド層をターゲットにしたのです。
経済効果が大きい
デジタルノマドは、現地での家賃・食費・観光・カフェ利用などで、継続的に消費をします。また、ノマド向けのコワーキングスペース、住居、サービス産業への波及効果もあり、地域経済の活性化に貢献します。
雇用を奪わない存在
多くの国は、デジタルノマドビザの対象者に対して「現地での雇用・ビジネス活動を禁止」しています。つまり、地元の仕事を奪うリスクがなく、地元の労働市場への影響が少ないという点も、導入を後押ししています。
デジタルノマドビザを発行している国(地域別)
現在では50カ国以上がデジタルノマド向けのビザを発行しています。その中でも特に人気のある国々を地域別に紹介します。
デジタルノマドビザを発行している国(地域別)
現在、50カ国以上がデジタルノマド向けのビザを発行しています。以下はその一部を地域別に紹介します。
ヨーロッパ
- アイスランド
- イタリア
- エストニア
- ポルトガル
- ハンガリー
- マルタ
- クロアチア
- ギリシャ
- スペイン…など
アジア
- タイ
- 韓国
- 日本
- インドネシア
- マレーシア
- 台湾…など
北米・カリブ海諸国
- ドミニカ国
- キュラソー
- ケイマン諸島
- バハマ
- バルバドス..など
中南米
- メキシコ
- コロンビア
- コスタリカ
- アルゼンチン
- ブラジル..など
5カ国のデジタルノマドビザ条件比較
以下は代表的な5カ国のデジタルノマドビザ取得条件です(2025年時点)
国名 | 収入条件 | 滞在期間 |
---|---|---|
タイ(DTV) | 月$2,000以上 | 360日 (180日+180日延長) 5年以内何度でも入出国可 |
エストニア | 月€4,500以上 | 最大1年 |
ポルトガル(D8) | 月€3,480以上 | 最大2年、1年延長可 |
ブラジル | 月$1,500以上 または銀行残高 $18,000 | 最大1年 |
韓国 | 韓国の国民総所得(GNI)の2倍 | 最大2年 (1年+1年延長可) |
デジタルノマドビザは取得すべきか?
特定の国に長く滞在する予定があるなら、取得を検討すべき。
たとえば、タイのDTVビザのように、180日間滞在しさらに延長可能、そして5年間有効で何度でも再入国できる柔軟な制度がある国は、拠点を持ちたいノマドにとっては非常に魅力的です。
また、ヨーロッパではポルトガルやスペインなどが人気で、温暖な気候と整ったインフラ、そしてノマド向けのコミュニティが充実しています。
逆に、「1カ月程度の滞在で十分」「頻繁に国を移動したい」という人にとっては、観光ビザの範囲内で活動する方が手軽で、制度の煩雑さを避けられる場合もあります。
デジタルノマドビザについて まとめ
デジタルノマドビザは、リモートで働くノマドにとって、これまで以上に自由かつ合法的な働き方とライフスタイルを可能にしてくれる存在です。
世界中の国々が受け入れを進める今、自分に合った国・制度を見つけて、安心してノマドライフを楽しみましょう。